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中原中也の春宵感懐(Poem and Piano)

Poem and Piano シリーズに中原中也の詩「春宵感懐(しゅんしょうかんかい)」の動画をアップしました。曲はアルバム「imaginary world (remastered version)」より「imaginary_world」です。写真は去年撮った桜です。

この詩は古い言葉も少なく、わりと分かりやすい方じゃないかなと思いました。タイトルがちょっととっつきにくい感じですが(笑)。

詩を読むと何を表現しているのだろうと考えます。わからないこともあるし、こうかな?と思うこともある。あれこれ、考える。考えるきっかけを与えてくれるものかなと思ったりします。「春宵感懐」も言葉自体は難解ではないけれど、何を言おうとしているのだろう、こうじゃないかなと何度も読み返して考えました。

英語の詩もそうですが、色々な詩を読んでいると、けっこう重いものも少なくないと感じます。どこにもその言葉を使っていないのに、強烈に何かを連想させられるものもあります。短くても底なしに深く感じることがあり、ちょっと怖かったり。気分が滅入りそうになるものも。Poem and Pianoでは、どっちかというと重すぎない(と私が感じる)ものを選んでいます。

だいぶ前になりますが、「イル・ポスティーノ」というイタリア映画を観ました。この時「詩」の意味について考え、一つの言葉から想像の世界が広がっていくことに気づいたりしました。細かいところは覚えていませんが、この映画では「詩」が人をポジティブな方向に導いてくれるものとして描かれていたような印象が残っています(あくまでぼんやり覚えている印象です)。私が詩に求めているのはこれかもしれません。

でも普段から詩をよく読むわけではなく、自分のYouTubeチャンネルでPoem and Pianoの動画を作り始めたのをきっかけに、たくさんの詩に触れることになりました。

今回の動画で、一旦「Poem and Piano」はストップすると思います。作った時はまたお知らせします。

 

通じない表現 オノマトペ

『日本の名詩、英語でおどる』(アーサー・ビナード著/みすず書房)の中で紹介されている詩の一つに、中原中也の「サーカス」があります。

この詩の中に、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」というオノマトペがでてきます。この詩を知らなければ、これだけでは何の描写かわからないですよね? でも、これはサーカスの空中ブランコのことを表しているとわかった上で読めば、なんとなくムードが伝わってくる感じがします。長いロープが少したわみながらゆっくり大きく揺れている様子が、目に浮かぶような(どこで見たことあるのか?ずっと昔テレビか何かで?記憶は定かではないけど)。

アーサーさんはこれを訳すのに大変悩まれたようです。もともと、英語にオノマトペが少ないというのは知っていましたが、アーサーさんの説明を読んでなるほどと思いました。

「日本語は、擬音語と擬態語が実に豊富で、工夫すれば造語もできる言語的環境だ。それに引き替え、英語にはオノマトペが乏しく、増やそうにもなかなか増やせない。一番のネックは、スペルだ。

英語を母語とする人間でも、活字で知らない単語に出くわすと、その発音がおぼつかない。発音記号を解読したとしても、やはりだれかに聞かないと、確信は持てない。辞書に載っているような新出語でさえそんな具合なので、できたてホヤホヤのオノマトペ造語はもっとおぼつかない。意味が通じるかどうかという問題も立ちはだかっているが、それ以前に、書き手が考えた発音の通りに果たして読まれるかどうか、保証はまったくない。

“Yooaaan Yooyohhn Yooyayooyon”ーなんのことかさっぱりわからない。でも、少なくとも空中ブランコの雰囲気ではない。」

アーサーさんは「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」は音楽であるから、それを音楽として感じてもらうために”Yooaaan Yooyohhn Yooyayooyon”としてみようと思ったが、元の日本語の音のように発音してもらえるか怪しいし、雰囲気も伝わらないので、やめたということです。

日本語の場合は、その通り読めるし、日本人同士はその音から雰囲気を共有できる。日本語と英語はずいぶんかけ離れた言語だけど、オノマトペによる表現力の違いも大きそうです。

結局、アーサーさんは「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」を、

“SEEEEEEE SAAAAAAAW, SEE AND SAW”

と訳された。seesaw(シーソー)は英語でぎっこんばったん。シーソーと言えば日本の公園にあるブランコじゃないのを思い浮かべますが、これで行ったり来たりする感じを出すのと、seesawは英語で「見る」と過去形の「見た」という意味もあるし、「サーカス」の出だしの

「幾時代かがありまして」

とも響き合うと。

そもそも、微妙な表現の多い日本語を英語に訳すこと自体が難しいのに、「詩」なんて少ない言葉の後ろに多くの意味が込められている分、翻訳が大変なのは簡単に想像できること。オノマトペにいたっては、お手上げに近いということですが、それでも日本の詩に感動し、それを英語を理解できる人たちに伝えようと思ってアーサーさんは挑戦したんですね。

この本で紹介されている詩は、過去のものだけれども、今にも通じるものがある、普遍的で本質的なことが書かれているから、読んで欲しいというアーサーさんの願いが感じられます。そして詩を理解することから、その後ろにある文化を理解することにつながるかもしれない。翻訳者の役割は大きい。

私も特に夫の仕事の関係などで、色々な国の人と話す機会がたまにあります。実際、英語が共通語となっていると感じます。英語という壁を感じながらもお互いの考えや思いを伝えようと話していると、国籍や文化は違えど、共感し合える部分がたくさんあるとしみじみ感じ入ることがあります。言語は思った通りの意思疎通を妨げる壁になっているけれど、これを使わなければコミュニケーションできないツールでもあります。

自分のブログも英語で書ければ、もっと広く世界の人にも読んでもらえるのにと思いますが、そこまでの時間はありません(翻訳は時間がかかるし、あってるかどうかも怪しい!)。とりあえず、音楽で伝えていければと思っています。

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