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もっと自由に

少し前、ジャズのことを調べていた時と前後して、『インプロヴィゼーション』(デレク・ベイリー著/工作舎)という本を読みました。この本は今も本屋さんにありますが、うちにあるのは発行1981年となっています。結婚当初から家にありましたが、何度か読もうとしてあまり興味を持てずにいた本です。でも、今は作曲や編曲してそれを演奏するという中で、クラシックを弾くのとは違う音楽に対する取り組み方を模索していて、この本も興味をもって読めました。
インプロヴィゼーションとは「即興」のことで、この本は、現代音楽、インド音楽、フラメンコ、ジャズ、ロック、教会オルガン、バロック、フリーというジャンル別に、その分野の音楽家への聞き取りと著者の考察がなされています。
まず前提として、デレク・ベイリーは即興には二つの主要な形態があると述べています。
「イディオマティック(イディオムに根ざした)」と「非イディオマティック(イディオムに根ざさない)」の二つです。
イディオムとは英語で慣用語、熟語、語法といった意味で、つまり、そのジャンル内で通用する言葉のようなものではないでしょうか。そういう意味ではフリー以外は、だいたいイディオマティックに入るのではと読んで思いました。
ここでは即興におけるイディオムの役割を「主にあるイディオム―ジャズとかフラメンコとかバロック―の表現方法に結びつき、そのイディオムからアイデンティティーや動機づけをえている」と書いています。
なので、ただ感性で、その場でひらめいて、インスピレーションを得て突然演奏するというよりも、その分野のイディオムを蓄積した上で、即興演奏ができるようにトレーニングをすることになるということですね。先日の法然院のバロックコンサートでもそんな説明がありました。
先日、ジャズのパターンやフレーズを覚えるつもりがなくて、すぐにレッスンをやめてしまいましたが、私はオリジナルに取り組んでいるので、ジャズのイディオムを覚えても仕方ないということです。

もちろん、即興演奏をするつもりもないのですが(無理だし)、自分の曲でもたびたび演奏することになると、その都度新しい曲を用意できたらいいのですが、なかなか追いつかず、演奏する自分自身がもっと変化がほしいなというところにいたっています。それで、演奏の際何か工夫が必要だなと思い始めたのが、即興に興味をもったきっかけです。
以前、「自由について」という記事を書きましたが、その時フランス人に言われた、自分の曲でも毎回同じように弾くのなら自由じゃないのじゃないの? という意見について、その時はそんなことはないと思っていたけど、ようやくそうとも言えることもあるかもと思うようになりました。
それでもやはり、即興というのは、特に何かのイディオムを持ってるとか、そういうことが得意でなければ難しく、私のような者の場合、ちゃんとあらかじめ検討を加えた作曲や編曲の方がまだましなものができるはず。家では簡単な即興は試してみてるし、児童館ならやさしいやさしい即興的なことはやりますが、ちゃんとした演奏として即興ができるとは、今のところとても思えない。
それで、昨日のいるか喫茶バーでの演奏は、あらかじめ自分の曲を何曲か編曲してみました。これなら短期間でできました。自分の曲なのでもっと自由な発想で試してみればいいと思って。

『インプロヴィゼーション』の中のバロックの章に、次のようなことが書かれています。

「当時は作曲家自身が自分の作品を演奏するものでしたし、ときには時間がぜんぜんないということもあって、譜面にすべての音を書くというようなことはしませんでした。作曲家は、ここでなにか特定のことをしようというところを思い出すために、音符を書きとめておいただけなのです」

そんな、不完全な楽譜では心もとないので(自信がないので)、その代わりに編曲を済ませて譜面にして弾いたわけです。
さて、今後どんな風に展開していくか? まだまだ試行錯誤は続きます。

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ポール・サイモンについて少し

ポール・サイモンについて何かを語るほど何も彼のことは知りませんが、最近興味を持つようになった経緯が自分でもおもしろいなと思っています。まあ、こういうことはよくありますが。
クラシックのように楽譜ありきでない音楽との向き合い方を考えるために、少し前またジャズを勉強しようとしたことはブログにも書きましたが、それを知ったご近所のジャズ好きな方がおすすめのトリオなどをいくつか教えてくださってその中に、ヨーロピアン・ジャズ・トリオがありました。
彼らは皆が知っているクラシックやポピュラー、民謡などをモチーフにした曲をたくさん演奏しています。その中に「スカボロフェア」があります(私が聴いたのはもう10年以上前の演奏ですが、とても素敵です)。

スカボロフェアは誰もがどこかで聴いたことのあるなじみのある曲だと思いますが、いい曲だなと改めて思って、元の曲を聴いてみようと思いました。といっても、民謡なのでそれをアレンジして昔歌っていたサイモン&ガーファンクルの動画を観ました。スカボロフェアといえば彼らの曲と思ってたくらい。
よく聴いてみると、アレンジがとても凝っている。ポリフォニックなサウンド。声と楽器(クラヴィコードかチェンバロのような音も聴こえます)が溶け合うように重なって、何度聞いても感動できるような味わい深さです。

少し前に、ある人の記事でポール・サイモンがバッハの影響を受けていることを知りました。きっと、スカボロフェアのアレンジはポールに違いない!? そのあたりからポール・サイモンへの興味は強くなっていきました。
それで、検索してみると、現在70代半ばでまだまだ現役で今年出したアルバムが全米チャート3位、全英チャート1位というから驚きです。その音楽は、「刺激的で、若い!」。音楽に年齢は関係ないと、勇気をもらいました(笑)。

こっちはライブ。リズムがかっこいい!

クラシックを弾くことは学びと楽しみのために私にとって今も重要ですが(といっても最近はオリジナルに時間がいるので毎日弾くのはほとんどバッハくらいですが)、人前の演奏のための作曲・編曲のためにはもっとジャンルを超えて、ジャンルにとらわれずに音楽に向き合いたいと思っています。
そういう意味で、クラシックを含む色々な音楽から影響を受けオリジナルを生み出している音楽家には興味があります。ヨーロピアン・ジャズ・トリオのマーク・ヴァン・ローンもクラシックとジャズを同時に学んできたピアニストです。
素晴らしい才能に接すると、自分は何をやってるんだろう?と、ふと我に返ったりすることはびたびですが(笑)、では「やめる?」と自問して、「やめません」というだけです。自分がどこまで行けるか?それだけです。

バレンボイムの話を聞いて

たまたまYouTubeでダニエル・バレンボイムの音楽レクチャーのような動画を見つけました。10分弱の動画ですが、とてもいいお話が聞けました。

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その中で特に印象に残ったことです。
バレンボイムが14歳の時に、ホロヴィッツの前でピアノを弾いた時のことです(バレンボイムは神童だったからすでに普通の14歳とは全然違ったでしょうね)。その時にホロヴィッツがバレンボイムに言った言葉が忘れられないと言います。

「君は常に意思(will)をもちなさい」

それは「何かを表現しようとする意思」のことということです。すばらしいアドバイスですね。
私も「どのような音楽をどのように表現していくのか?」この大きなテーマに向き合いながら、その時そうするのが一番と思ったことを、意思を持って取り組んでいます。
ジャズピアノのレッスンは結局1ヶ月未満でやめました。知らなかったわけではないのですが、やはりジャズはパターンを覚えなければいけない。ジャズピアノを弾くのが目的ではないから、パターンを覚えることは私には意味がない。
でも、気づいたことは色々あります。それこそが、頭で考えてるだけではわからなかった、やってみてわかったこと。やはり思ったことを実行してよかったと思っています。
どんな音楽であろうと、私は、「歌心」が感じられるものに惹かれるので、そういう音楽にインスパイアされながら、「何かを表現しようとする意思」を持ってこのまま音楽に向き合い続けるつもりです。