椰子の実

「椰子(ヤシ)の実」という曲をご存知でしょうか?
日本の古い歌です。詩は島崎藤村で、のちに大中寅二が曲をつけたということです。
実は私もメロディをぼんやりとしか知らなくて、改めて聴いたりその背景を知って少し興味を持ちました。

言葉や表現が古くて少しわかりにくいですが、現代の歌手が歌えばより親しみやすく、改めていい歌だなと思いました。

この詩が書かれたのは明治時代。
民俗学者の柳田國男が学生だった頃、旅先の愛知県、伊良湖畔の砂浜で、流れ着いた椰子の実を見つけた。友人の島崎藤村がその話を聞き、そこから着想を得、「椰子の実」という詩を書いたということです。

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ
故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生いや茂れる
枝はなお 影をやなせる
われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)
海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん

こちらのサイトより引用しました。意味も書かれています。

昭和になって、世の中のムードが悪くなっていた頃、明るい歌をということで国民歌謡が作られ始め、そのうちの一曲「椰子の実」を大中寅二が作曲したということです。
ところが、この歌はその後太平洋戦争で南方の島に赴いていた兵隊たちによく歌われていたというのです(参考記事)。
そう思ってこの詩を改めて読むと、泣けてきます。切ない。帰りたいけど帰れないというどうしようもない思いを託せる歌だったのかもしれません。

日本の古い歌には、自然や心の機微を表現した文化的、文学的価値があるものも少なくないですね。昔々から、日本人は自然に自分の気持ちを重ね、自然を通して内面を表現することに長けていると感じます。現代人が失いかねない感性が詩の中に生きているような気がします。詩に込められた思いが歌によって未来の世代に受け継がれるといいなと思っています。


こちらの本も参照しています。